FM三重『ウィークエンドカフェ』2020年9月12日放送

尾鷲市九鬼町。
港から坂道を歩き石段を上っていくと小さな本屋さんがあります。
名前はトンガ坂文庫。
今回は、この本屋さんの本澤結香さんがお客様です。

の奥まで色んな人に知ってもらいたくて本屋を作った

漁村なんですが、町の奥まで他所の人が入ってい来ることは、なかないと思います。
町の奥にお店を作ることで、九鬼の町をいろいろな方に知ってもらえるかなということで、この場所にお店を作りました。
一緒にお店をやっている方が九鬼に住んでいるのですが、ここに住み続けるにあたって本屋がほしいというのが発端。
私もそれに賛同して一緒に本屋を作ったという流れです。
最初はそれこそ町の方から「この本持ってけ!」といただいたりしていたのですが、最初から自分たちで好きな本を少しずつ集め始めて、最近は新刊2割・古本8割で、自分たちが読みたいと思った本、おすすめしたい本など。
2年経ってお客様の顔が浮かぶようになったというか。
この本を置いたらあの人が喜ぶだろうな、とか、あの新刊が出たのでこれはあの人に勧めたいな…と思う本が増えてきたので、自分たちもですが、お客さんにお店を作ってもらっているという感覚が強くなってきました。

 

ンガは大風呂敷を広げる人。そのことばも守っていきたい

お店には、近所の人をはじめ、県内各地から様々な人が訪れます。
ちょっとした旅行気分で立ち寄ってくれる人も…。
みなさんからよく「トンガ坂って何ですか?」と聞かれます。
トンガというのは九鬼町の言葉で『大風呂敷を広げる人』という意味があるみたいで、そのトンガと呼ばれる方が、この坂沿いに何3人くらい住んでいたらしく、で、町の方が面白がって「あそこの坂はトンガがたくさんいるからトンガ坂じゃ」と呼んでいたのを、そのまま屋号でいただきました。
『トンガ』という言葉も、若い方だと知らなかったり、なかなか使われなくなっていました。
言葉ってどんどんなくなったりすると思うんですけど、それを屋号にすることで言葉の寿命が伸びるのでは、と使わせてもらいました。
トンガの王様と呼ばれていた方のお孫さんが、SNSでたまに連絡をくれて、里帰りしたときに時々寄ってくれます。
先日、お盆に帰省されたとき、「トンガのお墓に行くから一緒に行かないか」と誘ってもらい、親戚の方々と一緒に、トンガの王様と呼ばれた方にご挨拶に行ってきました。

 

会の人と地元の人、子どもたちが集ってくれて楽しい場所になっている

本当に不思議な場所にあるので、迷われる方が多いのですが、町の方が親切に教えてくださったり、わざわざ外の地域から来ることにも面白がってくれます。
また、地域の方は高齢の方が多いのですが、「新聞で見たんだけど、この本取り寄せてくれないか」と言われたりします。
インターネットを使えない方も多いので、そういう方に頼まれて注文したり。
あと、毎週来てくださる方がいて、ここで出逢った本をきっかけに研究を始めて、毎週研究の進捗を報告に来てくれます。
たまたま町の方が遊びに来ていて、よその方も遊びに来ているときに、狭い店内なので会話が始まったりします。
そこで九鬼の町のことを外から来た方に説明してくださったり、思わぬ交流が生まれるのは楽しいですね。
また、町の子どもも少ないですけど、宿題をしに遊びに来てくれたり。
ちょっとした駄菓子を置いていたときは、お菓子目当てで来て、でも本も読んでくれるとか。
遊び場にしてくれるのが嬉しいですね。
気軽に寄ることができる場と思っている方もいらっしゃると思うので、それはとても嬉しいです。

 

本のおもしろさ

本は情報発信の1つ。
自分の選んだ本がどんな人と出会うのかなと思うとそれも楽しいですね。

古本の独特な匂いがあって、なんだか前にほんの匂いを嗅いで比べるということをしていた方がいて、それぞれの匂いも手触りもそうだし、視覚以外で感じることができるのがリアルな書店で得られる情報の一つだと思うので、それもリアルな本屋を営業している役割の一つだと思っています。
ここにも飾ってあるんですけど、とても古いJRの切符をとてもリアルに手描きしてあって、おそらく栞代わりに多分挟んでいた方がいて、そういうのが出てきたりとか、何十年も前のレシートとか出てきたり。
その時は北海道の札幌の大通り公園でビールとタバコをのレシートで、ああこの人はビールを飲みながらタバコを吸いながら、この本を読んでいたんだなあと。
線を引いてあるのも私は好きで、「前の持ち主はここに感動したんだ」「ここを何故ポイントと思ったのか」…などを考えながら読むのも楽しいですね。
そこがやっぱり古本の楽しみの一つかなと思います。
読んでいる本は、その人の一部というか…自分ちの本棚って人に見せるのがちょっと恥ずかしいと思うのですが、こっそり垣間見える感じがとても楽しくて。
「あの人、この本が好きならあの本も好きだな」とか、「この方の本を読んでいるなら、あの話題を振ってみようかな」とか、個人的にコミュニケーションを楽しんでいます。

本を好きな方って、町を歩いてもわかりませんが、本屋をしていることでそういう方が集まってきて、お客さん同士で繋がり始めたりしてくれると嬉しいですね。